紅の雁
千野隆司氏の時代小説「紅の雁(くれないのかり)」を読み終えました。非日常的なことが次から次へと起きて一気に読むことができました。
あらすじ描写は新しい読者の興味が薄れてしまうので極力、割愛しますが一言で表せば身分違いの恋です。
小説は平凡な日常生活の連続では誰も読んでくれません。アッと驚く展開が読者を釘付けにするのです。
古今東西、身分違いの恋は悲しい結末が多いのですが、ハッピーエンドで終息するたくましい恋はドラマによく合います。
カップルの間柄では「ローマの休日」に代表されるように、男性が市井の人(しせいのひと)で女性が高い身分のケースが多いようです。
市井の人と雲上人
このドラマは窮屈な王室生活に飽き飽きしている王女といけめんカメラマンとのハプニングの恋ですが、さすがに恋の成就とはなりませんでした。
雲上人(うんじょうびと)とは、はるか昔では宮中の人などを指す言葉でしたが、今では住む世界が違う人のことを言います。
対して市井の人とは、井戸端会議に花を咲かす人々ですから庶民ということです。
オードリー・ヘップバーン主演の「ローマの休日」映画は著作権が切れていると思われるので、無料で入手できそうです。
王冠を賭けた恋
「紅の雁」の主人公は徳川8代将軍吉宗のような妾腹の子である庶子・三男でありながら、養子になって殿様になり、微禄な嫡子(ちゃくし)の兄たちに妬(ねた)まれます。
実は養子になる前、あねご肌の市井の女性との間に一子をもうけていました。
実社会でも身分違いの恋は少なくなく、英国王エドワード8世(ウィンザー公爵)の「王冠を賭けた恋」はあまりにも有名です。
それとは少し異なりますが、三人の子連れ女性と結婚し、さらに二人の子を授かり五人の子の親となって悠々の人生を歩んでいる頼もしい芸能人がいます。
「紅の雁」の主人公は旗本のリーダーとして名実ともに嘱望されながら、すべてを投げ打って市井の女性のもとへ…が結末のようです。
執事が代行
しもじもの人間には考えられないのですが、公共交通機関の切符を自分で買ったことが一度もない、自分の銀行口座からお金を引き落としたことがなく秘書・執事が代行してくれる、供を連れずに一人で出歩いたことがない人が存在するようです。
俗な言い方をすれば、超お金持ちの爺やと婆やに囲まれた環境です。
一般人にはごく普通の行動ながら違う環境で育ったものには何もかもめずらしく、ドラマ仕立てで展開するので多くの読者を惹きつけるのでしょう。
読書の秋
文学作品を通して何かを訴えるのが作家ですが、あまり深刻な作品は敬遠したいです。齢(よわい)を重ねるとより娯楽性を求めるようになりました。
秋の夜長には、好きなジャンルの本をじっくり読むのも至福のいっときといえましょう。