日進月歩の技術
人情、風俗、慣習などは緩やかに変化しますが、エレクトロニクス技術の進歩は急速です。最前線の現場にいないと浦島太郎状態になりそうです。
過去を顧みる
過去の失敗例を顧みて過ちを繰り返さないように、また不便な生活を改善するきっかけにしたいものです。今回はプリンターバッファーを検証しますが、この製品の寿命は長くありませんでした。
商品化は米国で始まり、行動力に富むベンチャー企業家が基本的なノウハウをアメリカから取り寄せ日本で発売したと記憶しています。
プリンターバッファーのニーズ
プリンターバッファーは今から30年前ごろ、パソコンとプリンターの間に接続され、パソコンの稼働率を向上させるために利用されました。パソコンの普及はマイクロソフトから発売されたMS-DOSというオペレーティング・システム(Operating System)が貢献したと言われています。
MS-DOSはコンピュータを簡便に使いこなせるように手助けする中核ソフトウェアですが、現在のWindowsのように音楽を聴きながらワープロソフトで原稿を作成する並行処理をすることはできませんでした。
MS-DOSのもとではプリンターやXYプロッターに設計図を出力終えるまでは次の処理業務(ジョブ)を実行できずにずいぶん待たされました。当時、設計図出力は30分以上もかかることがあり、長い待ち時間になりました。この待ち時間を縮小するためにプリンターバッファーが開発されました。
プリンターバッファーの原理
原理はプリンターに送るデータを外部半導体メモリのバッファーに蓄え、プリンターの動作に呼応してバッファーから印刷データをプリンターに送ります。プリンターはメカニックな動作をするので低速ですが、半導体メモリへの出力は一瞬と言えるほど短時間です。
プリンターバッファーに印刷データを送り終えた段階でパソコンでは次の処理を開始することができるのでパソコン利用効率が向上します。
並行処理とタイムチャート
プリンターバッファーを用いた出力方式も形を変えた並行処理です。設計図が完成するまでの時間はどちらもほぼ同じです。
プリンターバッファーの功罪
功罪というより果たした役割は大きなものがありました。車のナビゲーションシステムは外付けが多かったのですが、今では本体に組み込みになっているケースが多くなっています。プリンターバッファーの機能も今ではパソコン本体にすべて備わっています。
当時、プリンターバッファーに必要な半導体メモリやハードディスクに代表される外部記憶装置は高価でした。そのために、パソコン本体に常備されることなく、単独製品になりました。
現在のOS(オペレーティング・システム)はマルチジョブを並行実行出来ることに加えて、高速処理を可能にする大容量半導体メモリは安価であるため、高速プロセッサと外部機器との処理時間差を調整するためのスプール処理に取って代わられています。
終わりに
周辺環境が充実し製品開発状況が変化する例を述べました。古いものにこだわることなく、日進月歩する状況を素早くキャッチして時代を牽引していってもらいたいです。
新しいことを始めるのは小組織ですがそれを大成させるのは大組織が多いです。残念ながら小組織は開発し、商品化に成功したところで達成感いっぱいになり、継続できずに下り坂に陥りやすいと言えましょう。
技術の陳腐化はいつの世も起きます。そのとき、最善と考えたものが新しい手法が考案されて消えていきます。
役割を全うしたプリンターバッファーはマッカーサー元帥の言葉を借りて、「老兵は死なず、ただ消え去るのみ(old soldiers never die, they just fade away.)」と大見得を切っているようです。