藤沢周平の作品はおおかた映画化を終えていますが、氏の短編には映画化されていない感動的な作品がまだ残っています。
その中に「三月の鮠」があります。海坂(うなさか)藩の御家騒動を描いた短編小説です。
ルネ・クレマン監督「禁じられた遊び」が少年と幼女の純愛映画ならば、「三月の鮠」は御前試合に敗北し屈託を残す青年が、藩の権力闘争で肉親をことごとく失うという過酷な試練を受けながら、早春の雪解け水に飛び跳ねる鮠のような乙女との交流で再起する江戸恋物語です。
作者の渾身の力を振り絞ったラストシーンが心の琴線に触れます。